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第3回「契約書はビジネスの精髄です」


企業活動は、外部(顧客・取引先)との取引と、内部(従業員)との労使関係によって成り立っています。
いずれも契約によって成立する関係であり、契約の内容は契約書によって証されます。

つまり、企業の活動は、外部と内部のいずれについても、契約書が支配しているのです。契約書は企業活動の精髄だと言えます。

こんなことを言うと「当たり前じゃないか」という向きも多いでしょう。
しかし、契約書を大事にしていない会社がいかに多いことか、業務を通じて痛感しています。

分量は多いのに重要なことが記載されていなかったり、非常に短くて重要事項の欠落が多かったり、見積り書で代替するなどしてそもそも契約書を作っていなかったり、など、いろいろなパターンが見られますが、中小企業においては契約書に不備があることが大半です。

それは、理念としては契約書の重要性を分かったつもりでいても、「どのような項目を入れなければいけないのか分からない」、「信頼関係があるので契約書は作らなくて良い(簡単でよい)」、「あまり細かく決めると相手を疑っているように思われる」、「業界の慣習上、見積書で代えている」などの理由で、きちんと詰めた契約書を作成されていないケースが多いのです。

取引が順調に進んでいる間はそれでいいのでしょうが、一旦トラブルになると、契約書不備のために、請求できると思っていたお金をもらなくなったり、予想外の補償に応じなければならなくなったりなど、様々なトラブルが生じます。

このように大切な契約書を、本当に大事にしているかどうかで、その会社のビジネスに対する姿勢も自ずと浮き彫りになってくるのではないでしょうか。


契約書がその会社の姿勢を表しているという印象的な例をご紹介します。私が顧問契約をさせて頂いている、ある会社様の例です。
その会社様は、当該業界では熊本でもトップクラスの規模を誇っておられます。多分会社のお名前を出せば、あるいはロゴを見れば、ご存じの方も多いと思います(顧問契約上の守秘義務がありますのでお名前は出せませんが)。

そちらの会社様は、もとは個人商店から大きくなってこられた会社であり(だと思います)、急速に会社が発展する中で、会社の組織整備が発展に追いつかない状況となっていました。
しかし、そちらの社長は非常に意識が高く、会社規模に合わせ、そして更なる成長も視野に入れて会社の組織整備をするご意向でした。社長が一番気になっておられたのは、何と「契約書」でした。
私のところにご相談に来られた時点で使っておられた契約書は、業界のモデル約款などを参考にして改良を重ねておられたものであり、専門家の介在無しで作成されたものとしては質・量ともに相当な水準でした。

しかしながら、お会いして業務の内容・手順を伺ってみると、顧客様のところに赴いて契約をされることが少なくないということであり、「特定商取引法」の適用対象になるものでした。そうすると、クーリングオフの対象となり、クーリングオフの適用について契約書内に法令の定めに従った様式で(記載内容のみならず、フォントの指定など厳格に定められています)記載しなければならなくなります。
クーリングオフの記載が抜けていると、罰則規定もありますから、非常に大変なことです。その他にも、専門家の視点でチェックすると、補充したり修正すべき項目が少なくありませんでした。
そして、その会社様と顧問契約を締結させて頂き、契約書の全面改訂を担当させて頂きました。

会社にとってみれば、契約書の書式を改善したからと言って直ちに利益につながるものではなく、むしろ弁護士費用や印刷費用などのコストを要するものですが、その会社様は(あるいは社長様は)、契約書こそビジネスの精髄であるとの信念のもとに、契約書の改良を行われました。

契約書はビジネスの精髄であり、また、その会社の体質や理念を明確に表現するものであるという高い意識の現われです。その後、それまで散見された契約上の疑義によるトラブルの話は伺っていません。
成長する会社には、それだけの理由があるのだということを肌身に感じたケースでした。

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